「オメガバース」って何?麻生ミツ晃『リバース (Re : birth)』

『リバース』の概要とあらすじ

『リバース』の概要

『リバース (Re : birth)』は2020年に海王社(GUSH COMICS)から発売された、麻生ミツ晃先生によるBL漫画です。「オメガバース」の設定を舞台に、愛の後悔と欲望を描いたミステリー仕立てのラブサスペンス漫画となっています。

麻生先生はBL界屈指のストーリーテラーと評され、これまでに『Seasons』『彼が眼鏡を外すとき』などの作品を発表してきました。ひとめで麻生作品とわかる繊細で情緒たっぷりな絵柄も魅力です。

オメガバースとは?

舞台は「オメガバース」と呼ばれる男女以外の第二の性がある世界です。作中では「バース性」と呼ばれます。

「オメガバース」は海外の二次創作界隈から派生した、生殖にまつわる世界設定です。人には男女以外にも「α・β・Ω」という第二の性が備わっているとされ、近年はBL漫画界で数多くの作品が発表されてきています。

作品によって細かい設定は変わりますが、BL界では主に「Ωは男女問わず妊娠が可能である」「Ωの出すフェロモンでαやβが発情する」「αがΩのうなじを噛むと、お互いにしか発情しなくなる」などの設定が主流です。

特にうなじを噛んで結ばれる二人は「番(つがい)」と呼ばれ、一生を共にする運命の関係となり、本作でも主要なモチーフとして扱われます。

加えて重要なのがα・β・Ωには社会的な差別構造があることです。男女問わず誘惑するΩは被差別の対象であり、逆にαは優性遺伝子とされ社会的強者とされます。

『リバース』でもこの設定を背景に物語が展開していきます。

物語のあらすじ

『リバース』はオメガバースの設定をベースに、現代の日本を舞台にしたラブサスペンス漫画です。二人が真実の愛を守る姿と、オメガバースにおける格差や差別が生み出す悲しみを、ミステリーを交えて描くストーリーです。

小説家の化野円(あだしのえん)と警察官の吐木幸村(はばきゆきむら)は、同じ児童養護施設で育った同志で、産まれながらのバース性に乗っ取った「番」でもあります。円がΩで、吐木がαです。

円はフェロモンの分泌が異常で、吐木と番となった後でも吐木以外の人にフェロモンが感知されてしまうほどの体質です。そんな円を支えるために、吐木は有能な警察官と認められながらも出世の道を断り続けています。

吐木は円を心から愛していますが、二人が番になった経緯には恋愛感情以外の理由があります。吐木はその経緯から、円が「自分から逃げ出したい」のではと不安を抱えていました。

ある日、吐木の勤める所轄の管轄下で猟奇的なレイプ事件が起こります。同僚の鷺沼と捜査にあたる吐木。Ωを標的とした連続レイプである可能性も浮上し、フェロモンの抑制がうまく出来ない円を思う吐木に、不安が募っていきます。

一方で円は、吐木には絶対に明かせない大きな秘密を抱えて生きています。その秘密を明かしてしまえば自分たちの人生が根本から変わってしまうと恐れ、吐木に後めたさを抱えながら生活しています。

物語は円のそんな過去の思い出を振り返りながら、レイプ犯の正体と目的が解き明かされていきますが・・・・・・。

BL漫画の局地!超骨太ラブサスペンス

『リバース』はこれまでのBL漫画界で扱われてきた様々な問題を包括する、超骨太のラブストーリーです。運命とその偽りを人の心を描いた、まるで映画のようなラブサスペンスの物語となっています。人の理性を壊す「バース性」のせいで混乱に落ちていく、どうにもならない二人の運命が描かれています。

主役たちが番となった経緯やその関係性が引き起こす愛情の苦悩に、猟奇的な事件の真相とがクロスオーバーしながらストーリーが進みます。

円と吐木の二人は同じ養育施設で同室として育ったことから、番になる遥か以前から深い絆で結ばれています。しかし思春期の検査でバース性がわかると、それに左右される社会的な運命に飲み込まれていきます。

物語と平行して描かれる猟奇殺人事件の真相も、サスペンス性たっぷりです。事件の経緯や犯人の動機が、物語のメインテーマと絶妙に絡み合います。

麻生ミツ晃先生の描く漫画はどれも、登場人物の動機付けがしっかりと錬られています。漫画の舞台と登場人物の人生とに、明確な相互作用があるような設定が錬られています。なぜその人物がそのような行動をとるのか、なぜ恋に落ちたのかという説得力のある状況設定が魅力です。

特に、後半にかけて明かされる円の切ない過去と想いは涙無くしては読み進められません。思わず落涙してしまう、感動のラブストーリーです。オメガバースならではの超濃厚な性描写も見応えたっぷりです。麻生先生ならではのドラマチックな肉体描写も美しすぎます。

ここがオススメ!

BL玄人も満足の一冊!

色々なBL漫画を読み尽くした方でも大満足必死の一冊です。おなじみのオメガバースでも着眼点が他の漫画とは全く違うので、何度読んでも満足できる作品になっています。あれもこれも読み飽きた!という玄人さんには、是非読んでいただきたいディープな一冊です。

BL作品の中で、オメガバースは主に同性同士の恋愛を正当化する仕掛けとして導入されました。フェロモンという動物的な本能も、成人向けの展開にしやすくする効果的な状況設定です。

一方で、αとΩという支配関係を前提としたシビアな世界観でもあるため、これまでのオメガバースBL作品でも様々な問題提起がされてきました。そんな数々の問題の解決に切り込んでいるのが、この『リバース』です。

定番の展開を読みすぎたBL愛好家でも満足できる、オメガバースの最終形な一冊になっています。

メタファーで学べるLGBTQ

円と吐木の二人の運命は、自分の力ではどうにもならない社会的な構造に翻弄されます。性別や出自など関係なく、ひとりひとりが自分らしく生きようとするのを妨げるのが「バース性」です。性差に基づく社会構造と差別の現状が、悲しみの連鎖を産んでいきます。

このように『リバース』で扱われるオメガバースの問題は、実際の差別やLGBTQ問題のメタファーとして機能しています。特にバース性はフェロモンという動物的な特性も起因しているため、自分では選ぶことのできない生まれ持っての資質やレッテルの隠喩です。

この漫画では、世の中に様々な固定概念と差別があり、そのなかで悩む人々がいることを理解していく上でも重要な漫画です。軽い気持ちで読めるのもBL漫画の良い一面ですが、逆に『リバース』のように私たちの世界の形を考えられるのもBL漫画ならではです。がっつり読むぞ!という時にぜひご覧になってみてください。

文・五十嵐みゆき