ラブコメが好きにはたまらない 中村明日美子「あなたのためならどこまでも」

あらすじ

堅物刑事・高千穂巧は1年もの間結婚詐欺師・七海洋一を追跡していました。

その執念が実り、とうとう七海を絶海の離島に追い詰めたものの、手違いが起こって高千穂と手錠で繋がれたまま彼を東京の刑務所にまで護送する羽目になります。

しかし七海は道中も高千穂にセクハラを働き、高千穂の気は休まりません。

結婚詐欺師の甘言に騙されまいと抗いながらも七海の甘い笑顔とテクニックに翻弄されて、次第に彼を意識していく高千穂
高千穂と七海の凸凹コンビははたして無事東京に戻れるのでしょうか。

抱腹絶倒の珍道中が始まります。

登場人物

高千穂巧

オールバックと眼鏡がトレード―マークの堅物刑事です。

性格はいわゆるツンデレ、正義感が強く生真面目な青年です。
一年間追っていた七海を離島で捕まえるものの、彼に迫られて困惑を隠せません。
受けです。

七海洋一

高千穂が一年間追っていた結婚詐欺師です。
端正な容貌と甘い言葉で数多くの女性を騙してきました。高千穂に好意を持ち、彼にたびたびセクハラを働きます。
飄々として掴み所ない性格の攻めです。

レビュー

BLにとどまらず幅広いジャンルを手がける中村明日美子

チャラ男と真面目、正反対の高校生のじれったい恋模様を描いた「同級生」は青春BLの金字塔として脚光を浴びました。

本作は中村明日美子作品の中ではコメディ色が強く、「ダブルミンツ」などと比較すると性描写は抑えめです。ですが中村明日美子独特のフェティッシュな描写は健在でした。

受けの高千穂はオールバック・眼鏡・スーツと三拍子そろった堅物で、基本的には無愛想キャラです。

高千穂に冗談か本気か判じかねるちょっかいを出す七海は、飄々として掴み所がない食えない攻めとして造形されています。

刑事と犯罪者、硬派と軟派、一途と女たらし。
何もかも正反対の二人が片手同士を手錠で繋がれ、運命共同体となって一路東京をめざすのですが、トラブルが起きないわけがありません。

本作の見所は二人に次々襲いかかるトラブルと、それをくぐりぬけていくうちに芽生える絆です。

高千穂にとって七海は憎むべき犯罪者、一年間追い続けた天敵です。
しかし手錠で繋がれてしまった以上息を合わせなければ突破できない難所も存在し、その際は共同作業を余儀なくされます。

高千穂は決して冷徹なだけの人間ではありません。
フェリーの待ち時間に七海がもらす、嘘か本当かわからない身の上話にほだされそうになるなど、言ってしまえば「ちょろい」所が可愛げになっています。

一方で刑事としての責任感や使命感もきちんと持ち合わせており、七海を憎からず思いながらも踏み留まり続ける、距離が縮まりそうで縮まらない絶妙の匙加減がポイントでした。

ラブコメが好きで刑事と犯人の関係性に萌える方なら読んで損はありません。

性描写は抑えめとはいえ、寸止めの前戯はそこそこあります。

過激な描写を求める方には向きませんが、気持ちが空回るじれったいラブコメディが好き、受けと攻めのテンポよい夫婦漫才が好きならツボにハマります。

高千穂がツッコミ、七海がボケと役割分担がはっきしているので、コントみたいにサクサク読み進められました。

手錠で繋がれているからこそのおいしいシチュエーションも随所に散りばめられています。七海が高千穂に悪戯をする時は、手錠を掛けられているからこそのきわどいポーズをとらせるので、より受けの切迫感や倒錯的な興奮が強まりました。

前半は高千穂と七海が漂流するスラップスティックなロードムービーの趣が強いですが、二人が結ばれる雪山回以降はメロドラマチックなストーリー性に比重が割かれています。

特に七海視点で高千穂との出会いを回想するシーンは、へらへらして本心がわからなかった攻めの意外な純情が判明し見方が改まりました。

中村明日美子作品では現代が舞台のラブコメであり、読みやすい部類なので、彼女の作品の中でまず何を読もうか迷ったBLライトユーザーに手に取ってほしいです。

高千穂はツンデレ受けの典型のようなキャラクターであり、真面目で誠実な人間として描かれているので好感が持てました。平素が仏頂面なので、高千穂に上半身を剥かれて赤面する描写がエロティックに引き立ちます。

七海は黒髪ピアスに無精ひげスタイルで少し好みが分かれるかもしれませんが、溺れた高千穂を颯爽と抱き上げるシーンには男らしさを感じました。

巻末には高千穂と七海が登場する平安パロディも収録されており、相変わらずな二人のかけあいが楽しめます。

同時収録作は主人を亡くした執事とセールスマンの話、スキンシップ過剰な男子高校生と赤面症の男子高校生の話。「あなたのためならどこまでも」は違ったテイストで、中村明日美子の引きだしの多さに驚かされます。

ハネムーンというと甘いイメージを連想しますが、こんな一風変わった新婚旅行があってもいいと読後は感慨深くなります。

離島、無人島、温泉、雪山、ホテルとアクロバティックにロケーションが変わるので、攻めと受けがそこでどんなスキンシップをするか注目してください

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