【昼は社員憧れの王子様夜は社会性欠如のクズ】里つばめ『GAPS』

『GAPS』の概要とあらすじ

『GAPS』の概要

「昼は社員憧れの王子様 夜は社会性欠如のクズ 狙われたお姫様(37才・不能)は――!?」(帯あおり文より)

『GAPS』は2015年に大洋図書 (H&C Comics CRAFTシリーズ)から発売された、里つばめ先生によるBL漫画です。その後、シリーズ漫画として『GAPS RISKY DAYS』『GAPS apples and oranges』『GAPS hanker』が発売されています。

里つばめ先生はサラリーマン物のBLを得意とされていて、シンプルでくどさのない絵柄とリアルな世界設定、的確な心情描写とコミカルな台詞回しが作品の特徴です。

物語のあらすじ

『GAPS』はまっとうな人生を送る会社員・長谷川直幸(はせがわなおゆき)37歳と、その長谷川に強引に迫る二面性クズ王子部下・片桐聡(かたぎりさとし)30歳との絶妙な恋の駆け引きを描いた作品です。

主人公の長谷川は気遣いに長けた37歳の優しい会社員で、仕事でも要職につき充実した社会人生活を送っています。しかしその反面私生活はさっぱりで、彼女とは夜の営みもうまくいかず、体の衰えや体力の低下も自覚しはじめていました。実家に顔を出すたびに親からは結婚を催促され、ふがいない自分に後ろめたさを感じています。

長谷川と同じプロジェクトチームの部下・片桐は、長身に甘いマスクで仕事の能力も抜群と社内の脚光を浴びる存在です。長谷川にも好意的に接し、同僚のミスフォローも完璧でいつも笑顔を絶やさず、非の打ち所がない「若くて長身イケメン」の片桐。長谷川はそんな片桐を自分とは程遠い存在と位置づけていました。

ある日、夜のランニングに出た長谷川はとある事件に遭遇し、王子様であるはずの片桐の全く違う一面に出会います。なんとオフの片桐は気に触った相手は通行人であろうと暴言をはき、週末はギャンブルに勤しむ「クズ」でした。

そんな片桐に戸惑いながらも部下として受け入れようとする長谷川に漬け込み、何かと絡むようになる片桐。デリカシーの無さを武器に、ズカズカと長谷川の心に踏み込んでいきます。

ついに長谷川が不能であり夜の営みに難航している事実まで暴いた片桐は「面白いAV見たんですよね 上司喰っちゃうやつ」ともちかけ、強引に長谷川に迫るのです。

ドラマさながらのドキドキオフィスラブ!

BLという言い訳も予定調和も通用しない、リアルな世界設定と理にかなったストーリー展開が魅力の作品です!まるで実在するようなオフィスを舞台に、時折のギャグを交えながら二人の恋愛模様が繰り広げられます。起承転結も見事で連続恋愛ドラマさながらです。主人公が葛藤しながら恋愛に落ちてく姿がごく自然に描かれています。

舞台となるオフィスシーンの演出も細かく、登場人物たちが働く場面もリアリティがたっぷりです。本筋には関係のない会議シーンまで細かく演出されているので、読み始めてすぐに『GAPS』の世界観に没頭してしまいます。

中でも主役二人の性格は魅力的で、つい応援したくなるような人間臭さあふれるキャラクターです。主人公の長谷川は30代後半ならではの現実的な悩みを抱え、片桐も「オンオフの差が大きいだけだ」と性格を改善することなくのびのび生きています。

理想化された恋愛相手ではなく、正反対でありながらもそれぞれの人間味に惹かれ合う二人。お互いのプライベートを通じて個々人としての魅力を知るなかで、二人の距離は接近していきます。オフィスラブの醍醐味であるトラブル発生やドキドキの展開も盛りだくさんです。

簡単にはベッドイン出来ない二人の関係性もじれったく、初夜に突入するまでの波乱の道筋も見どころです。攻防はシリーズごとにジリジリと進み、ついに片桐が本懐を遂げる場面で思いの他優しく長谷川に触れる姿は、今までの粗暴な姿とは違いロマンチックです!

シリーズものですが各巻完結型です。第一巻であるこちら『GAPS』だけでも十分読み応えがあります。

ここがオススメ!

お姫様扱いに陥落する37歳の行方

まともな長谷川がクズの片桐にいかに陥落していくかが、シリーズ通して最大の見どころになっています!主人公の男としてのプライドと、拒むごとにさらにエスカレートしていく片桐のお姫様扱いが見事な兼ね合いです。長谷川の壁をいとも簡単に取り払う、片桐のキテレツな思考回路も小気味良く物語を引っ張ります。

BL漫画では鉄板の「四十路前がイケメンに寵愛される」という構造ですが『GAPS』では一味違った展開を見せます。主人公には若々しさも恵まれた容姿もなく、なぜ愛されるにあたるのかは一見わかりません。しかしクズで飄々と生きる片桐が、どうして長谷川に純粋な恋心を寄せるかが納得できる丁寧な物語の進行で、思わず二人の今後を応援したくなってしまいます。

他人に興味も執着も持たずに生きる片桐が、想いを寄せる長谷川の前だけでは正直です。時には独占欲を隠そうともせずに迫るシーンは胸キュンものです。自信たっぷりに長谷川を愛す片桐が、ふいに弱腰になる姿や長谷川の一言に傷つく意外な瞬間も萌えポイントです。

真面目に普通に生きてきた長谷川が、クズで王子な片桐にどう攻略されていくのか。主人公が戸惑いのなかで答えをだしていくのが本作品の魅力です。

濃厚すぎる登場キャラ!

主人公の二人だけではなく、片桐の幼馴染である警察官の矢島や、本巻以降のシリーズに当て馬役で登場する三浦や瀬戸も強烈すぎるキャラクターです。それぞれが思いのままに生きています。

登場する当て馬達は、主役カップルの間柄をかき乱すというだけの古典的な役割ではなく、長谷川が自分とは違う生き方や考え方を目にすることで、片桐との関係性を前向きにしていく契機として機能しています。片桐の幼馴染である矢島も粗暴な性格が片桐と瓜二つです。片桐のどうしようもない人間性は根っからのもので、長谷川にはそんな自然体で接している事実を裏付けています。

人生は人との影響や出会いで変化し、変わらない部分の良さもあります。そんな流れを自然に取り入れて語られる『GAPS』は一度読みだしたらハマること間違いなしです!

文・五十嵐みゆき